室畑の山師

 築200年以上経つ照増さんのお宅を訪ねると、足を引きずりながらご本人が出迎えてくれました。その照増さんの足、実は若いころに大怪我をされ、その古傷が最近また傷みだしたそうです。どんな怪我なのかを聞くと、なんと「骨盤に足の骨がめり込んでいる」と、聞くだけで痛くなるような答えが返ってきました。
 若いころから山仕事をしていた照増さんは、枝打ち、下草刈りはもちろん、間伐、伐採まで、体ひとつで全てを手掛けてきました。そんなある日、大木に登り作業しているとき、照増さんはあやまって転落してしまったのでした。そのときに骨はずれ、9ヶ月間もの入院を余儀なくされましたが、結局骨は元に戻らなかったそうです。しかし運よく痛みは引いたため、また山仕事に戻ることができ、地元雨畑の山だけではなく、伊豆や神奈川の山もまたにかけて仕事をしていたそうです。
 そんな照増さんに室畑での暮らしについて聞いてみました。昔の集落はどんな様子だったんですか?「にぎやかだったよ。ちょっと奥には甲州金山があって、2000軒も家があった。そこにはたくさんの物資が運ばれてきていて、もちろん自分の家で雑穀も作っていたけど、米を買って食べることができたんだよ。金山のおかげで電気も早く入ったんだ。」でも金山もなくなってしまった今ではさみしくないですか?「でも、のんきでいいよ。診療所へは町の車で送迎してもらえるし、買い物も行商のトラックが来たり集落の人に頼んで買ってきてもらったりしているので、今も不便と思うことはない。楽しいこともそうないけど、苦しいこともない。でも、そう思えるようになったのは最近かな。」長男ではないのに室畑に残り、家を守り続ける照増さんの表情や言葉からは、山に囲まれたこの地に対する深い愛情がにじみ出ていました。

  • 室畑の山師

照増さん

居住地 硯島地区 長畑・室草里
取材日 2001/08/29