優しさを感じられるひととき

 「よんじゅろく、よんじゅしち、よんじゅはーち、よんじゅく、ごーじゅう。」
 僕達が取材に行くと離れのお風呂からおばあちゃんと子どもの声が聞こえてきました。続いて、「さーちゃん、タオル取ってー」とおばあちゃんが呼ぶと、おねえちゃんが母屋の方からすったったと走ってきて弟を抱きかかえて母屋でささっと体を拭きました。
 そんな一場面で迎えられました。
 かつては旅館だったという立派な大黒柱がある家には、幸さんと照子さんと小学校3年生のさーちゃんと3才で保育所に行っているまーくんが暮らしています。
 今年からは、2人の孫と一緒に暮らすようになって、生活ががらっと変わりました。
 数年前までは2人で一緒に土建をやっていました。現在、幸さんは活性化財団のやまめピアで、照子さんは用務員として早川中学校から今年転勤して早川北小学校で働いています。照子さんは中学校や小学校で生徒と話をしたり、一輪車の手伝いをしたりして、おばちゃん、おばちゃんと言って親しまれています。
 仕事が忙しいにもかかわらず、ちびちゃんたちの育児にテンテコマイです。教育をしなくてはいけないから大変です。
 口調は厳しいけど、今しっかりしつけないで甘やかしてしまうと、この子のために良くないと言います。育児計画はもう頭の中にあるそうです。今、勉強に面白みを感じていて、国語や絵が得意なおねえちゃんには4年生になったらお勝手のお手伝いをさせる予定だと言います。
 「今でも仕事を続けているので仕事の時間が来たら行かなくてはいけない。だから、何をやるにも時間がかかる子どもになかなか時間を合わせることができない。ここでは子ども一人を育てるのに本当に苦労する。高校になると通える所がないし、交通が不便だし、商店が少ないし、なにかあった時にはやっぱりここでは困る。台風の時に道がずたずたになり、食料をヘリで運んでもらった事がある。そのような状況がいつまたくるとは限らない。そのような不安がここにはある。」と、40年くらい前からだんなの仕事の都合で新倉に来て、それ以来ずっと新倉に住んでいると幸さん夫婦は言います。子どものことを本当に真剣に考えるからこその厳しさだと僕らは感じました。
 来た当時、本当に山の中だなと思ったそうです。しかし、今となるとここの方がよっぽどふるさとだと感じられるし、狭い町で仕事で人に会う機会も多いので、町民の顔を知っています。「住めば都になってしまうんだねー。」
 「早川は静かさや人間の温かさが魅力」という幸さん夫婦の温かい声に見送られて、厳しい冬のはじまりを感じさせる寒くて静かな夜に僕達は足を進めました。

  • 優しさを感じられるひととき

幸さん

居住地 三里地区 新倉
取材日 2001/12/07