尊ぶ

 「慌てなくていい、ゆっくり年をとれば」とは、20歳でこの早川に嫁がれ、今年、米寿を迎えられるおる子さんの言葉。柔らかき白髪の美しさに、尊く重ねられた年月を感じます。
 亡くなられた旦那さん、そしてお子さん達も教鞭をとられる教師一家で、それをおる子さんは支えてこられました。苦労もあったそうですが、旦那さんのご家族への愛情深さが、それらを乗り越える力になったということです。それは、教育費のたしになればと、いっときを境に、お酒もたばこもきっぱりとお止めになる程。そして、周囲にお年寄りの方がいれば、出来る限りのことはしてあげなさい、とおっしゃるようなお優しい方でもありました。おる子さんが、そうした結婚生活の中で感じ取られたものは、「相談することの大切さ」だそうです。自分のことや家族のこと、周囲の方を思う上で築いたそうした指針は、今も毎日おる子さんに掛かってくる娘さんの電話にも生きづいています。コミュニケーションの大切さとも言えることですね。
 50歳を過ぎて、おる子さんは短歌をはじめられました。1ヶ月に5首のペースで詠まれています。お宅には、関連の本と詠まれた句を、たくさん拝見することが出来ました。今までに詠んだ句は数々の賞を取られ、NHKにもおる子さんの歌がとりあげられました。45年ぶりに都川にて催された同窓会の席では、恩師のご要望により、即興にて一首詠まれたそうです。その出来映えには、先生方も大変お喜びになられたと言います。その首を、紹介させて頂きます。
「叱られて また褒められし 師の顔を 親しみ続けて 45年過ぐ」
 今も尚続く良き師弟関係がこの首を生み出したのでしょう。
 私たちがうかがったこの日は、丁度ヘルパーさんがいらっしゃる日でもありました。9年来のお付き合いになるというヘルパーの京島さんにも一緒にお話を伺い、おる子さんの、やさしく芯の強いお人柄の造形が分かったような気がします。何事も尊び、日々を送る。ゆるやかに時を送るその姿には、やはり生活を尊び積み上げた日々の重さを感じずにはいられません。

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おる子さん

居住地 三里地区 早川
取材日 2002/02/21
取材者名 奥津 直子