みんなのために私が言いたいこと

 PM7:00 都川地区 保 辺りは暗闇、水路を水が流れる音だけが響いている。
 春子さんとその娘である美保子さんのお宅にて。以下に示すのは春子さんと美保子さんの最近の関心事、そして保の将来、早川町の将来についての考えである。
 まずは9月23日に控える町会議員選挙について。これは彼女の目下の気掛かりである。
 「も~う!大変!無投票にして欲しいの!」1800人弱の早川町にとって12人の町会議員を選ぶのは本当に悩ましいことのようだ。というのも、今でこそ外から移り住む人も増えているが、早川町は地区が違えど縦横斜め、皆親戚、知り合いのようなもの。ネットワークは早川町じゅうに枝葉のように広がっている。でも各自持ち票はたったの一票。要するに“あっちを立てればこっちが立たず”という状況か。「こうゆう小さい町は話し合いで決めたほうがいいんじゃないの!?ね!親戚同士で戦いたくないじゃん。ね!」人口が少ない分、一票がものすごく貴い、それで余計に辛い、ということ。選挙のある日まで早川町の夜は心落ち着く暇がなさそうだ。
 つぎはちょっと視点を変えて畑の話。
「ハクビシンでしょ、あとサルね。イノシシもね。人よりサルの方が多いんだから。そんなとこで選挙なんてね~。あはは。」動物は雨が降る前に畑によく下りてくるそうだ。「あの子たちも一生懸命だよ。背中に子供背負ってカボチャ抱えてるの見たら何にも言えないよ。」一方、畑仕事をしている春子さんは作物を動物に荒され、作る張り合いが無くなってしまう、と嘆く。畑は一年ほっておくといい作物がとれなくなる。そんなこともあってお年寄りは畑仕事を続けたいそうだが、子供世代にとってみれば少々困り事のようだ。「ジャガイモと体とどっちが大事!?ってね、言ってやったんですけど。」
 早川町の道路について。現在、美保子さんは増穂町にある職場まで車で通っている。
 「ま~あ、10年でずいぶん変わったね。ここから通えるとは思わなかったもんね。」年々道路が良くなっていく、ということ。道がよくなれば、住める人も増えるのでどんどん工事をしてほしい、また、東京や静岡などへのアクセスもしやすくなればますますいい。道路は住むためにとにかく重要な要素だとお考えだ。
 お葬式。田舎のお葬式は、古くからの風習に乗っ取り手作りが主流。美保子さんはそれに異義を唱える。
 「料理もたくさん作る風習があってね。でもあまっちゃうの。朝5時起きよ。女の人ばっかり大変。お葬式センターみたいなところに頼んで準備もお弁当もやってもらえばみんな楽じゃん?」お年寄りが多い町では特に大変で、お葬式で悩んでいる人もいるとか。改善が必要だと訴える。「この前うちでやったときはセンターに頼んだの。みんな何も言わなかったよ。もう21世紀だし。風習も少しずつ変えていかなきゃ。みんな思ってても変えられないだけ。都会風にやったら誉められちゃったよ。」古い風習も、おかしい、と思った人が変えていかなきゃ、という。「お葬式は日本中でみんな困ってるんじゃないかな。偉い人がやり方を決めてくれればいいのに、って思うよ。ね?」美保子さんはこんな新しい考え方の持ち主だ。
 最近増えつつある施設について。今年、家族で野鳥公園に出かけたという。
「あそこはいいよ!こんなに私たちの知らない花があったのかってね。埼玉の人も気に入って寄付してくれたし。こうゆうのどんどん作ればいいんだよ。」また、新しい北小学校の施設も町民にオープンになっている。ダイエットも兼ねて温水プールを利用しようと考えているそうだ。また、中学校となりの球場では都会から学生が合宿に来て、橋本旅館に泊まっていくという。「こうゆうのが増えればいいじゃん。都会の子がきてさ、田舎はいいなー、って思ってくれたらうれしいじゃん。」
 町内を走るバス。住民のバス離れという実状。そして医療のこと。
「空バスだよ。乗り継ぎ悪いんだね。高いしね。それだったら宅急便かなんか乗せて走ればいいの。」バスは主にお年寄りが病院に行くために使うらしいが、最近あまり使う人がいないとか。自家用車やタクシーのほうが使いやすいのだ。しかし最近は草塩など、出張でお医者様が来てくれて助かっているとのこと。「若い先生はやる気もあるし、元気もあるしいいね。医療はだいぶよくなったね。」
 そして最後に田舎の将来について。
 「歳をとってからこっちに戻ってくる人多いよ。子供は都会に残してね。歳をとると静かな田舎がいいみたい。今の4、50代の人は定年後に、結構戻ってくるんじゃない?それまで7、80代の人が頑張ってくれるかどうか。ね。」家は人が住まなくなるととたんに痛む。この近所でもシロアリの被害がひどいそうだ。そのため、時々家の掃除をしに帰ってくる人が多いという。それを見て、“あの人は帰ってくるつもりなんだな”とわかるそうだ。
 田舎の文句を挙げればキリがない、という美保子さんだが、明るい将来を展望している。「昔の風習も、今のお年寄りがいなくなったら無くなっていくじゃんね。そしたら自分達が住むころにはまた感覚が変わっているはず。でも考え方は違うかもしれないけど、田舎で暮らしたい人の生活は今とそんなに変わらないと思うよ。のんびり畑いじったりさ。都会の良さもあるけどそれが嫌な人はこうゆうとこに来るんじゃない?学校もさ、人数が少ない分みんな仲良くっていいよ。競争心はないけどね。のびのびしてるよ。登校拒否なんてないもんね。都会の子がこうゆう学校に行きたいって言ってるらしいよ。癒しっていうの?まあ、高齢者の町になってもいいじゃん、子供がいない分、年寄りが頑張れば。都会のほうが心配しちゃうね。良し悪しをうまくやれば都会も田舎もないんじゃない?人が多いか少ないかの違いでさ。」
 聞いていて嬉しくなるような、素敵な考えかたの持ち主である。そしてとにかく元気。「もうこんな時間!こんどは朝8時に来てよ。ね?それからお父さんに早川町に別荘はどうですか、って聞いてみてよ。あとさ、建築学科の学生ならさ、シロアリに強い家、作ってよ。」美保子さんのお宅に伺って、本当に楽しい時間を過ごすことができた。ありがとうございました。
 最後に、とても印象的だった美保子さんの言葉を。「これから田舎も変わっていくよ。田舎は田舎でもナウい田舎ってなるかも。ね?!期待してるよー。ね?!」

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春子さん 美保子さん

居住地 都川地区 保
取材日 2001/09/02