活気の想出

 県道沿いにある一軒の立派なお宅。そこで取材班は弘さんという元気な初老の男性に出会いました。
 弘さんは仕事で不在の弟さんに代わって、弟さんのお子さんの面倒を見るために、一時的にここに住んでいるのだそうです。この高住区清水というところは、日照時間が冬場の最も短い時で1日わずか30分しかなく、一度でも雪が降ると春まで溶けないのだとか。
 聞けば、この家は元旅館で、弘さんのお父さんが25才の時に建てたのだとか。当時は家の前の県道を馬引きトロッコの走っており、さらにこの辺り一帯は水が非常に美味しいということで、ここに旅館を作ろうと決めたらしいと、弘さんは話してくれました。見ると、一階の廊下に面した部屋には、今でも部屋番号の札がかかっていて旅館であった当時の名残を感じさせます。早川町の山から切り出したケヤキで作ったという床や柱は、時の経過に黒光りしつつ全然古く見えません。今これだけ丈夫で長持ちする建物を作ろうとしたら、どれだけのお金と労力がかかるのでしょう。
 旅館をしていた当時、まだ子どもだった弘さんは、前の早川で遊んだこともあったそうですが、当時の早川は水量が現在の10倍はあり、流れも速くてとても泳いで遊ぶことはできなかったとか。その代わり、魚はいたなんてもんじゃないくらい多く、ウナギ針に大きなミミズをつけて水辺に垂らしておくだけで、天然のヤマメがいくらでも捕れたそうです。ハヤの産卵の時期ともなれば、テーブル1つくらいの広さの淵にとんでもない数のハヤが群れていて、それはもう見事なものだったと弘さんは言っていました。
 今、弘さんは元旅館だったこの家で、宅急便の受付をやっています。これは昔、旅館として多くの人を迎え入れたこの家から、人の出入りが無くなってしまったのを寂しく思い、始めたのだとか。
 最初は「俺は地元の人間じゃないから」と言っていた弘さん。でも、こうしたお話を聞くうちに、父親の残した家やこの地域に対する愛着が、私たち取材班にも感じられました。

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本建地区 高住

居住地
取材日 2002/12/15
取材者名 小宮 一穂