おいしいトマトをありがとう

かつ子さんは82歳。今日は朝のお掃除の最中にお邪魔してしまいました。
 僕らがお邪魔するなり自家製のトマトを御馳走して下さったかつ子さん。畑は昔からやっていて、終戦の頃にはあわ、ひえ、きび、さつま(さつまいも)や豆、赤もろこし(玉のような実をひいて餅にする穀物)などを作っていたそうです。かつ子さんの家は、もともと山や畑が近いそうですが、当時は一里も先まで子供を背負って通っていた人もいるとか。毎日ウェイト付きで4kmの往復。しかも行った先でさらに体を使うのですから大変です。かつ子さんは「やっぱ動いてるから、割合この辺の人は元気だね」とおっしゃっていました。
 かつ子さんが暮らす榑坪集落では、毎月12日にお寺と公民館の掃除をみんなでします。その後、お菓子を持ち寄ってお茶を飲むお茶会が、かつ子さんの今の一番の楽しみだとか。他にも榑坪には「豆腐小屋」という共同の釜があり、お正月には集落の人たちが大豆を持ち寄って、みそや豆腐を作るのだそうです。お正月に豆腐やこんにゃくを作ったり、餅をつく風習は今でも榑坪の伝統として続いているそうで、かつ子さんもお正月にはお餅を6つも7つもついて、豆餅、きび餅、あんびん(あんこが入った丸餅)などをたくさん作るそうです。
 お話を伺っている中で、「今年は蜂が多い」と刺された足を見せてくれました。大丈夫ですか、と心配する僕らに「いや蜂なんかには負けんから」と笑うかつ子さん。昔から、蜂の巣は、台風のない年は高いところに、台風の多い年は地面に近く作ると云われているのだそうで、確かに今年は台風の当たり年と云われていただけに納得。かつ子さんは「蜂だってバカじゃねぇだから」とおっしゃっていましたが、僕らはそれ以上に、日常の経験から出る昔の人の知恵に感心してしまいました。
 榑坪集落の上には七面山の前に七面様が立ち寄ったという七面大明神のお宮があり、10月19日には祭が催されるそうです。今年はかつ子さんたちが当番で、そこで売られるおでんや餅投げのお餅などを作るのだとか。これまたおいしそうなお話で、僕らは話を聞いているだけでおなかが空いてしまいました。そんな僕らの様子を見てとったのか、かつ子さん、今度はお赤飯を出して下さいました。
 渇いたのどに沁みたトマトの味。空いたお腹を満たす赤飯の味。どちらも本当に美味しかったです。ありがとう、かつ子さん。

  • おいしいトマトをありがとう

かつ子さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/08
取材者名 小宮 一穂