どらポケット

 1年が365日でも足りないとおっしゃる公隆さんは現在榑坪の区長さんです。役場でのお仕事に加えて、畑仕事、集落や望月家での年中行事がその忙しさの内訳。1月1日の拝賀式・新年初総会に始まり、1月14日の道祖神さまのお祭り、7月15日の祇園祭、8月16日の夏祭り、先祖川供養、10月19日には七面大明神様の大祭、11月23日には遠渡(とおと)神社のお祭りがあります。昔から代々続いてきた行事ですが、河原で催す、麦わらで作られた大きな松明を燃やす夏祭りのような大がかりなお祭りは簡素化されてきています。祭りを担う若い衆が少なくなったためです。今では松明がお目見えしなくなって20年が経過していますが、それでも10年前にやはりやってみようということになったそうです。しかし、それも2年程行った後、集落の人にかかる負担が大きく取りやめになりました。人手がないことで貴重なお祭りが出来なくなっていくのは、どうにもせつない話です。ご家庭では、お正月には門松を立てお餅をつきます。お盆、暮れ、お正月には望月家のお持てなしを楽しみに遠方からご兄弟がやってくるのです。長男として、父親母親が亡き後はしっかり兄弟の「親代わり」にならなければ、と公隆さんはおっしゃいます。
 公隆さんは、五箇の小学校に通っていました。なんと片道1時間半の通学路。その頃は、集落にも子どもはたくさんいて一緒に登校しました。畑を横切り千須和を横目に見ながらの登校です。帰りにはアケビや柿をとったそうです。柿を橋の下に干したという話には、思わず微笑んでしまいました。他にも、川でもりを使って魚を突いたり、高飛び込みをしたり。魚を追うあまり思わず夢中になってしまい、岩にはまってしまったこともあったと懐かしそうに話をして下さいました。
 今の子供たちは遊び相手がいない、と公隆さんは気にかけています。遊びに行くにも他の集落は遠く、気軽に遊びに行けないというのが現状。その分、娘さんと一緒に過ごす時間を大切にしていらっしゃいます。
 その逸話は、娘さんを連れて行った甲府での出来事。公隆さんの奥さんは、お料理上手だった公隆さんのお母さんの味を忠実に受け継いでいらっしゃいます。その味になれた娘さんは、出来合いのお総菜に一言いって箸を止めました。「これ、あんまり美味しくない。」共に時間を過ごすようにしている公隆さんもこの舌の敏感さには驚いたそうです。しっかり娘さんにも望月家の味が伝わっている証しですね。
 楽しいお話が次々と飛び出す公隆さん。話題は多彩でまるで誰かのポケットのようでした。

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公隆さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/09
取材者名 奥津 直子