なつかしの黒四ダム

 「退職してからは、趣味で家の前の花壇で花を植えているよ。今は仕事をしなくていいから、今日やらんでも明日できるからねえ。勤めているときは、そうはいかないからね。」そうおっしゃる和明さん(まさとしさんと読みます)は、日本軽金属の発電所整備の仕事をしていました。西山からお婿さんに入ってからは、身延町の波木井や南部町の十島まで、ここ榑坪から通っていたそうです。舗装してない道を走るのは、夏はホコリが立つし大変だったそうですが、昭和40年代前半には車を持っていたそうで、「遠くまで通うためだけど、ここらでは早いほうだったよ。」と、ちょっと得意顔。
 お話を聞きながら、居間をぐるりと見渡すと、全国名所のちょうちんがならんでいました。どこが一番印象深いですかと尋ねると、「やっぱり黒部だねえ。なんせ、黒四で3ヶ月ばかり働いていたんだから。」そうおっしゃって、黒四での思い出を語り始める和明さん。黒四での仕事をやったのは40年ほど昔の話。まだ日本軽金属ではなく、横浜の富士電気工事で働いていて、全国各地の発電所の仕事に携わっていました。黒四に来たのは冬。宿泊所が谷間にあったから日が入らず、洗濯物もヒーターで乾かしていたそうです。「山をそっくりくりぬいて、山の中につくった発電所なんだから。でっかい発電所だったよ。」そんな思い出の地、黒部を再び訪れたのが去年。和明さんの目に映る黒四ダムは、僕らの目に映るそれよりも、一段も二段も味わい深く映ったんでしょうね。

  • なつかしの黒四ダム

和明さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/06
取材者名 本田 智比古