我が子のために

 このあたりではあまり見かけない、土壁の蔵造りの民家にお住まいの忠義さんは今年で86歳。でも元気いっぱいに家の中に案内してくれた。土壁の内部の部屋は、真夏の昼間でも驚くほど涼しい。2階に行くと「くの字」に曲がった太く立派な梁が何本もあるが、天井が意外と高い。屋根にも土が入っている。横を見ると、養蚕に使う道具が積まれていた。15年ほど前までやっていたそうだが、町長賞や知事賞の受賞歴があるほどその品質が高かったという。よい繭をつくる秘訣は温度、風通しのほか、春秋は2階、夏は離れの1階でやるなど、作る場所にも注意を払う。先に述べた家の特質も高品質の繭を作るための条件であったように思われる。
 養蚕はやめてしまったが、畑仕事、椎茸栽培はいまだ現役である。無農薬で肥料も天然のモノを使う。大豆、空豆、グリンピース、大根、白菜などなど。とにかく、種類も量もたくさん作る。だが決して売ったりしない。全部町外に住んでいる息子達にあげる。自称早川で一番野菜やキノコを送る人。時には80箱も送る。息子達はその大量の野菜を、知り合いを集めてみんなに配るそうだ。そうやってみんなが喜ぶことがいちばんの楽しみだという。
 かつて出稼ぎで忠義さんがやっていた大工の仕事に影響を受けた息子達は、みな建築関係の仕事に就職した。残念ながら一人は他界してしまったが、三人ともそれぞれの分野で、立派な役職に就くまでになった。
 これだけ健康で働けるというのは何よりの幸せだという。今日もその健康な体で畑に出て、健康な野菜を育てる。畑が楽しい。息子達も忠義さんが健康でいられるからうれしいといっているそうだ。
 榑坪の畑とキノコが親子の深い関係をつなげている。

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忠義さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/07
取材者名 遊佐 敏彦