食に賢く

 袈裟江さんは夏秋出身で、結婚して23歳から榑坪集落に住んでいます。故郷の夏秋集落には養蚕が無かったそうで、結婚後、当時養蚕の盛んだった榑坪で、何も知らない養蚕の手伝いをするのは大変だったそうです。それでも、他の人と一緒になってやっていくうち、自然と体で覚えていったとおっしゃっていました。
 また袈裟江さんは地元の東京電力の寮に8年、身延の工場に10年ほど、外の仕事にも出ていたそうです。夏秋は周囲を山に囲まれた集落で、そこでの生活で培われた体力が、袈裟江さんを支えていたのかもしれません。
 でも、それだけではありません。仕事を退職し、60歳を過ぎた今、袈裟江さんは更なる挑戦に出ています。日本上流文化圏研究所が主催する「あなたのやる気応援事業(地元の人の事業企画を助成する事業)」に参加し、「たんぽぽの会」として榑坪のお友達とグループを組み、自分たちが食べてきた地元のおいしい野菜を使ったお弁当や加工品を売り出そうと積極的に活動しています。もともとは、きのこ組合長を務めるご主人と、しいたけ、なめこ、ひらたけなどのきのこを売りたいと思っていたそうですが、実際に出荷となると作業も手間がかかり、集落と県道の間に出来る橋(現在はすでに完成している山吹橋)のあたりででも売ろうかと悩んでいたのだそうです。そんな折、やる気応援事業の話を聞いて、一気に計画は広がり、ついに「たんぽぽの会」が動き出しました。今は榑坪でキャベツ、トマト、おくら、ナス、ねぎ、カボチャを、夏秋に大豆、小豆を作り、イベント会場などで早川町の「食」を広めると共に、地元向けのお弁当などを作ろうと頑張っています。袈裟江さんは「どこまで実現できるかわからないけれど、夢に向かってボチボチやっていきたい」と笑っていました。
 こうして、間接的とはいえ農業(野菜作り)を本業とした今、特に感じるのは、農家というのは、全て時期を考慮して行動しなければいけないということだそうです。食べたいから作るのではなく「一年を通じて食べること」が如何に難しいか。今は、なんでも食べたいときに食べたいものを買いに行けば済んでしまうけれど、本来、食べ物を得るにはすごく頭を使う。昔のお百姓さんは本当に頭のいい人たちだったのだ、という袈裟江さんの言葉は、「食べ物を買う」ことに慣れてしまった私たちの心に印象的に響きました。

  • 食に賢く

袈裟江さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/08
取材者名 小宮 一穂