新しいへっつい

 ヘアーバンドを頭に巻いた若々しい姿で、英子さんが迎えてくれました。ちょうど、夏休み中のお孫さんが3人も泊まりがけで遊びに来ている最中。「もー、大変な騒ぎなのー。」といいつつも、「自分が健康で、孫にいろいろしてあげられるのが幸せ。」と笑顔がこぼれます。
 英子さんは、上流文化圏研究所が行っている「あなたのやる気応援事業」に、「たんぽぽの会」の一員として参加しています。料理の腕自慢の3人グループが、早川ならではの、地元の素材を使ったお弁当やお惣菜などを売るために活動中。目下、イベントの時を中心に、お弁当やおむすび、自分たちの畑で取れた野菜類を販売しています。そして、ゆくゆくは、この7月末に開通した山吹橋のたもとでお弁当屋さんを構えるのが夢です。
 出身は、お隣、身延町の桶職人さんの家。お母さんも料理が上手だったので、「料理が好きなのはそのせいかな。」結婚して早川にやってきましたが、5年ほどで旦那さんの転勤があり甲府へ転出しました。以来、甲府で暮らし、5年ほど前に早川に戻ってきました。
 料理の基本は料理学校で学びましたが、あとは応用です。その応用の時のセンスや勘と、手をかけることとが、おいしい料理を作るうえで重要な点です。
 例えば英子さんは、お正月のおもちをつく時や、タケノコを煮る時などには、かまどを使います。ほうろくで豆を煎ることもあります。「赤飯を炊くんでも何でも、薪の火とガスでは全然味が違うのよー。」実はこのかまどは、12年くらい前に母屋の台所を改装したのに併せて、甲府のかまど屋さんに頼んで作ってもらったもの。今でもかまどを使って煮炊きするお宅はいくつもありますが、築10数年という新しいかまどを使っているというのは、英子さんのお宅ぐらいなものなのではないでしょうか。また、50歳前後の頃には、セブンイレブンのお弁当を作るパートをしていたこともあります。頑張ってお弁当を作っていたら、会社から、若い人の指導にあたって欲しいから、と正社員に抜擢されたそうです。
 こういうところからも、英子さんが本当に手間を惜しまず、おいしい料理を作ろうとしているということが伝わってきます。
 英子さんの料理は、その材料を作る所から始まります。野菜類を畑で作るほかに、身延町下山に田んぼを持っていて、お米も作っています。甲府時代は、本当にちょっと野菜を作る程度で、百姓仕事、特に米作りはしたことがなかったのですが、本を頼りに勉強しました。英子さんは、苗代を作って苗を育て、田植えも手でおこないます。また除草剤も使いません。こうして、家族が1年食べるのには多いくらいのお米が穫れます。また、畑では、今、夏野菜がほとんど全てできています。トマトは、この時期、トマトソース用に湯むきして冷凍処理。お孫さんに「おばあちゃんのお料理で何が好き?」と聞いたら、「トマトソースのスパゲティ!」と答えてくれました。
 橋のたもとに構えたお店で自慢の料理を売るために、土地取得のことなどの相談もしています。3人のメンバーの中でもよく話し合って、家のことをしながらお店をやって行けるようにしたい、というのが英子さんの考え。店舗という固定した場と、何か「これ」という固定した商品があれば、ちょっと楽にできるかな、と思っています。とにかく、単なる思い出づくりにはしたくないし、うまくいきそう、という感触もあるので、これからも頑張るのみ。
 かまどで煮炊きするおふくろの味を、山吹橋のたもとで売り出せるようになる日が一日も早く来ることを祈っています!

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英子さん

居住地 五箇地区 榑坪
取材日 2002/08/10
取材者名 柴田 彩子