昔苦労、今元気

 きみ子さんは、富士宮から、ここ久田子にお嫁に来た。「お嫁に来た時はえらい所に来たなーと思ったけれど、縁あってのことだから。ね。」
 87歳になるというのに、6時に起きて朝仕事をして、朝食を食べ、洗濯をしてからまた畑に出る。その畑も、平らな畑ばかりではない。傾斜のきつい畑もある。それでも、自分の畑を「うなったり、かじったり」するのは楽しみでもある。なんといっても、まだまだ自分のことは自分でする主義なのだ。
 大変だったのは、戦争中の食糧難時代。シダミ(ナラの実)を拾っては何度も何度も灰汁を抜いて、それに小麦粉を入れて練って焼いたものだとか、ジャガイモの小さいのを炒って味噌を絡めたものだとか、高い山の上にある八寸蕗だとか、モロコシの芯、芋のタコ(葉っぱの茎の部分)なんていうものまで食べていた。畑では、キビや麦、アワを作った。そんな時代を経験していたのだ。
 今となっては、本当に違う世界にいるようだ。
 そしてきみ子さんは、亡くなった旦那さんが元気だった頃に焼いたという炭を見せてくれた。真っ黒で、黒すぎて青っぽい光沢を帯びている、固い固ーい炭だった。それは、久田子の人々が苦労しながらも山の恵みで生活していた時代の確かな証拠に思えるのだった。

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きみ子さん

居住地 硯島地区 久田子
取材日 2002/08/27
取材者名 柴田 彩子