キツネだましの真相は?

「人間は何の為に生まれてきたか。」突然の大命題に一同考え込んでしまいました。
 最近、そんなことも考えるようになったと話す利治さんは、薬袋で生まれ育ちました。町や集落の人口が減っていくことに関して、「昔は養子をとってでも家を続けるのが当然だった。今では、本当の子供達でも戻ってくるかわからない。」と心配しています。今は別に暮らしている3人の娘さんも、将来この家に戻ってくるかどうかはわからないそうです。
 現在、利治さんの趣味は囲碁とゲートボール。囲碁仲間とはお互いの家をいったりきたりして打ち合っています。町の大会にも何度も出ていて、優勝したこともあるそうです。そんな利治さん、昔の出来事で一つだけ、その真相を知りたい事があるそうです。というのも利治さんは、戦前何回かタヌキかキツネかわからないけれど、何者かにだまされた経験があるそうです。しかも一人でいるときの経験ではなく、何人か一緒に居合わせた人もいるとのことで、それら不思議な現象について詳しい人の意見も聞いてみたいそうです。
 そのお話のいくつかを、ここに紹介してみたいと思います。

 戦前、利治さんが役場の用務員さんをしていた時のことです。ある寒い日の夜、当直で役場に泊まっていた利治さんは火を焚いて暖をとりながら、読み物などをしていました。
 すると坂道の上の方から、誰かが通り慣れた道を太鼓をたたきながら上ってくるではありませんか。何事かと慌てた利治さん、当時教師で宿舎に寝泊まりしていた利根川先生を呼んできました。そして二人はその何者かを追い返そうと、手頃な棒を手に持ち、果敢にも外へ飛び出していきました。
 しかし、つい寸前までは人の気配があったはずの外に、人影すらありません。と突然、今度は建物の反対側から、太鼓の音が聞こえてくるではありませんか。利治さんはどうせキツネかタヌキのしわざだから相手にしていてはいけないと考え、無視しましょうと言ったそうです。すると途端に太鼓の音はしなくなったそうです。

 それから一ヶ月ほどしたある日のこと。利治さんは同じように火に当たりながら、読み物などをしていました。すると何のまえぶれもなく突然、二階からドタドタとものすごい勢いで何者かが降りてくるではありませんか。慌てて外へ逃げ出した利治さん、しばらく様子を伺っていましたが、再び利根川先生を呼びに宿舎へ走りました。二人が戻った頃には何の気配もなく、二人は当直室で待機することにしました。
 それから何分かしたころでしょうか、再び同じように二階から何者かが降りてくるではありませんか。一旦はひるんで逃げ出した二人でしたが、剣術の心得のある(かもしれない)利根川先生、棒を構えて意気込み、利治さんにドアを開けるように指示しました。覚悟を決めた利治さん、勢いよくドアを開けました。
 と、しかしそこには誰もいないではありませんか。その後、二人で建物の中を探してみましたが、結局何も発見することはできませんでした。

 しかしこのようなことも、利治さんが戦争に行っている間(S15年頃から)に町に車が入るようになったころから、次第になくなり、その後、全く影もないようになりました。この辺りのお年寄りの多くが体験しているという不思議な出来事の数々、その真相はいかに?

  • キツネだましの真相は?

利治さん

居住地 五箇地区 薬袋
取材日 2000/03/2