石といつまでも

 硯匠庵でボランティアをなさっている繁吉さんは5年前までは硯職人。その技術と伝統を何とか継承していこうと、雨畑の地域住民と運動を起こし、この硯匠庵の設立に貢献しました。空いた時間は書の勉強をしながら、時には硯づくりの実演を、時には硯の歴史や作品の解説をして、その思いを多くの人々に伝えています。
 そんな繁吉さんの、石に対する想いは特別です。若い頃は、珍しい石を探して全国を歩き回っていました。そしてある台風の時、雨畑の岩盤がむき出しになったことがきっかけで、硯の原石を発見。雨畑の硯石は、全国でも群を抜いて良質だそうです。その時から硯職人を目指し、硯一筋でやってきました。それまでは、なんと21種類にも及ぶ職業を転々としたとか。葬儀屋さんをしたこともありましたし、イースト菌を早くに手に入れてパン屋さんを始めたり、多種多様。「人がやらないことをやろうとした。」と、繁吉さんは言っていました。
 「今でも時間があれば旅をしたい。」旅は行き当たりばったり、目的地は無いそうです。どこに何があるかわからないから、旅に惹きつけられるようです。離れてすむ息子さんは心配しているようですが、80歳になった今も、繁吉さんの好奇心は尽きることがありません。
 「石を相手にしていると無心になれる。職人とは一つのものを手掛けているときは無心になるんだよ。」繁吉さんの石への想いが、その言葉に詰まっています。独学で硯の作り方を学んだ繁吉さんは「石を毎日扱っていると、不思議と石の方から教えてくれる。」といっていました。現役を退いた今もなお、硯との関わりを持ち続けています。

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繁吉さん

居住地 硯島地区 長畑・室草里
取材日 2001/08/30