大家のおかみさん

 かずえさんは昔から旅館を営んでいます。旅館の名前は「大家」。ここ奈良田で一番古くからある家の一つだそうです。
 奈良田で生まれて、奈良田で育ったので、奈良田のことは非常に良く知っています。奈良田は昔、お寺の前に集落があり、今の集落の場所は一面畑でした。川ももっと細く、その川で泳いだりしたそうです。他にもお祭りが一番の楽しみで、奈良田の外から店がものを売りに来たりして、非常ににぎわっていました。昔の家は今のお寺の横にある奈良田民俗資料館のような形で、窓が少ないのが特徴でした。そのような家を各自が住み易いように工夫していたそうです。集落の真ん中に大きな井戸があり、その井戸の水を夕方に汲みに行って、瓶をいっぱいにしておくのが嫁の仕事としてありました。どんなに忙しくてもしなくてはいけない大変な仕事だったようです。また、地域行事も盛んでした。子どもが生まれると33日目に氏神様のお祭りをしたり、奈良法神社のお祭りをしたり、五穀豊穣を祈る穀蔵様のお祭りをしました。今でもそれらのお祭りをしていますが、昔の方が活気はすごかったそうです。
 また、旅館についても話してくれました。昔このあたりには旅館が並んでいたそうです。でも、今はみんな息子の所に行ってしまいました。客層も昔に比べて変わってきました。10年ほど前は学生の団体客がいたのですが、今ではほとんどいなく、60代が中心です。お客さんはほとんどこの奈良田を下山口として使っており、あまり登山口としては使っていないそうです。登る人は年に50人くらいで、下る人は忙しいときで日に60人ほどもいます。宿に泊まる人たちも山登りをする人が多く、彼らには自分の家で作った野菜で天ぷらや煮物などをしてもてなすそうです。その土地で育てたものをその土地の料理で作るのが非常に喜ばれています。けっこうリピーターが多く、その人が口伝えでお客さんを紹介してくれたりしていろいろな人と出会えるそうです。そういう人達と話したりするのが非常に楽しみになっています。
 子どもは3人おり、盆、正月には帰ってきます。お孫さんもおり、旅館が忙しいときには手伝ってくれます。息子さんは一緒に住もうと言ってくれるそうですが、いろいろなお客さんと出会い、いろいろなお話をするのが非常に楽しく、今は奈良田で旅館をやっているのがいいそうです。きっと多くの人と出会うことが元気の源なのでしょう。
 これから忙しいシーズンがやってきます。でも、かずえさんにとっては非常に楽しい時期がやってくるのです。

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かずえさん

居住地 西山地区 奈良田