現れるアイスクリーム
この家の縁側から見る近隣の山々は、急傾斜の上に深緑の鬱蒼とした森が広がる。一見すれば人を拒んでいるかのような大自然の中に、竹重さんが長年勤めたリフレッシュふるさとキャンプ場がある。山に慣れた大人が見てもゾッとするようなこの山に、都会からキャンプに来た子供たちはどれ程の期待と不安を抱くだろうか?長時間車に揺られ、そして傾斜のある小道を歩いたりして、まだ見ぬカブトムシやクワガタへの憧れを忘れつつある時にそのアイスクリームは現れる。アイスクリームが子供たちの今までの疲れや不安を完全に取り除く役目をする。
その証拠に竹重さんはキャンプに来た子供たちからキャンプ地のお父さんのように慕われて来た。それはただ単にアイスをくれる人として子供たちが懐いているのではなく、お金さえあればいつでもいくらでも買える、都会のアイスクリームと違って、大自然の中で疲れを癒す100円のアイスクリームが、状況やタイミングによっては100円以上の価値がある、もしくはお金には換算出来ないような価値があることを教えてくれていて、子供たちがそれに気付いているからだろう。そしてその心は、子供を通じてその両親にまで波及する。そのため、このキャンプ地を訪れた親子の多くはまた翌年も同地にキャンプに来て、そして竹重さんとの再会を最大の楽しみにする。またその親子の笑顔が竹重さんにキャンプ地の冷凍庫いっぱいにアイスクリームを詰めさせる。そしてアイスは再び現れる・・・。
山に囲まれた早川町、ここに住む人は嫌がおうにも山と関係を持って生活して来た。竹重さんもその一人で、戦前は林業に従事し、戦後は30年以上もキャンプ場の管理人として子供たちの笑顔を見守って来た。製紙会社に納めるためコウゾを栽培したり、炭を焼いたりもした。庭木にはカキの他にブナまで植わっている。そして軒先には来客用の椅子としてスモモの切り株が、昔使われていたというサワラの風呂の隣に置いてある。今ではキャンプ場の管理の仕事は後身に委ねたが、これら木工品を見ていると竹重さんの周りで子供たちの声が聞こえて来そうなのは気のせいだろうか?
竹重さん
居住地 | 硯島地区 老平 |
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取材日 | 2002/08/04 |
取材者名 | 平田 滋樹 |