真珠粒

 見事に黒く光る家の柱は、新倉からひろ子さんがお嫁に来た時からのものです。屋根も現在のトタンではなく、25年程前までは、木板を渡した上に石を乗せた様式でした。丁度、今では奈良田で見ることが出来るような昔ながらの様式のお宅でした。
 伺ったこの夜、その日採ったばかりのとうもろこしや青じそから作ったシソジュースをご馳走して下さいました。お嫁にいらした当時、畑仕事はおばあさんのお仕事でしたが、そのおばあさんがなくなってからは、ひろ子さんのお仕事になりました。7,8年畑仕事を続けていても難しいことが多いそうです。しかし、目の前の見事に粒の揃ったとうもろこしを見ている限りでは、そんなことはちょっと想像が出来ません。肥料は余り使わず、おばあさんの教えや近所の方のアドバイスをもとに娘さんの里美さんと二人分の作物をつくっています。
 里美さんはヴィラ雨畑にお勤めになって8年になります。ヴィラ雨畑でのお仕事は調理師さん。今、一番心にかけることは交通のこと。日に2本のバスの乗車率が悪いことは知ってはいるものの、やはりお年寄りが多い集落であり、何とかならないものかとおっしゃいます。ヴィラで働ける方も高齢化と共にだんだん限られてきているそうで行楽シーズンには忙しい毎日を送ります。しかし、70代ながらアルバイトとしてヴィラを助ける調理の大先輩もいらっしゃいます。新しい試みのお豆腐作りをはじめ、きちんとした衛生管理することなど大切なお仕事はたくさんあります。
 老平は、人と人とのコミュニケ-ションが心地よい集落だとひろ子さんは言います。お年寄りの方が多く生活しているせいか、集落の人の気づき合い助け合う精神は人一倍のようです。言葉を交わさない人は、日に一人だっていないくらい、というひろ子さん。生活の安心度はこうして保たれていることにうらやましさを感じました。
 お盆には息子さん達も帰ってきます。麦麹を使ったお手製寒味噌や勢揃いした真珠のような粒のとうもろこしや元気な野菜たちが食卓を賑わします。里美さんもお母さんの寒味噌はとてもお好きだそうです。お二人ではなかなか食べきれるものではありませんが、1年寝かした「お誕生のお味噌」がやはり風味が一番良いのだと教えて頂きました。宝石の輝きとは、お二人のようによく気付き丁寧に生活していることに他ならないのかもしれませんね。

  • 真珠粒

ひろ子さん

居住地 硯島地区 老平
取材日 2002/08/09
取材者名 奥津 直子