民宿から早川の輝く未来が見える

 終始お孫さんをひざの上に乗せて話してくれた民宿えびなやのご主人の順治さん、優しそうなおじいちゃん(まだ55歳です)の目の奥に鋭い光が宿っています。我々が伺った夜には宿泊中のお客さんが食事をしていましたが、毎朝4時に起きてお弁当の仕込みをし、7時にはもう一つの仕事場である土木会社に出勤するそうです。土日には趣味やら別の仕事やらがあり、かなり忙しい毎日を送られているようですが「やりたいことを見つけるには早川町は素晴らしい」とのこと。
 その根拠として、第一に「民宿をやっているといろいろなお客さんとの出会いがあります。自分が山好きであればそういった話題で話が広がっていく。この辺りはいい岩場があるから定期的に岩登りの講習会でも開けば町おこしにつながるというような話を勧められたりもする。河原でボルダリングをやっている若者もたくさんいます。たまに河原を歩いていると、途中、何十年も小石・砂・水に洗われた流木が何ともいえない奇妙な形になり、人間では作ることのできない美しさになっています。ほかにも、地元の人たちが気付いていないような面白いところは探せばいっぱいあるはずだよ。」と話してくれました。
 第二には先ほど趣味やら別の仕事やらと書いたのですが、蜂蜜の生産に関わるお話です。特に日本蜜蜂にこだわり、今は相当これに力を注いでいるそうで、蜜蜂を求めて「春先の土日は山梨県中を歩いて回っている」ほどだとか。早川町、特に西山の辺りでは人工林や果樹園がないため自然のままの生物多様性が保たれていて、春から秋まであらゆる種類の野草が花を咲かせます。レンゲやアカシアを求めてシーズンごとに移動する西洋蜜蜂との違いはそこにあり、栄養価が高くおいしい蜂蜜が早川で採れるのだそうです。技術的な話もたくさん聞いたのですが百聞は一見(?)にしかず、趣味で始めた養蜂は「輸入ができないもの、早川町にしかないもの」になりつつあります。
 順治さんは他にもアケビの蔓でかごを編んだり、丸太細工で小屋をつくったり、猟をしたりと休む暇なく現在の生活を満喫していますが、民宿のお客さんとしゃべりながら、お孫さんを可愛がりながら、鋭いまなざしで早川町の未来を見つめています。

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順治さん

居住地 西山地区 温泉
取材日 2002/08/30
取材者名 熊井 健