憂国の老翁

 和泉屋主人、一輝さんは、早川の将来を、そして日本の将来を憂いている。

 一輝さんは現在67歳。親父さんから店を受け継ぎ、長年、早川で商売を続けてきた一輝さんの洞察は鋭い。
「イノシシも山鳥もサルも今のようにたくさんいたのに、畑のものをそっくり食べてしまうことはなかった。今は人家にも下りてきて、それでも餌がないから中富町の方まで行っている」「岩場から出た木は枯れないけれど、植林の木はすぐに枯れたり折れてしまう。地元に根づいた木は山の保護になるんだね」「農園はもともと湿地帯でね、カエルの産卵期には袋もって捕まえたものさ。でもコンクリートで埋めたら急にいなくなったね。」
 自然の環境はちょっとしたことで変わってしまう。
 一輝さんの言葉は、刻々と変化する環境を敏感に捉えている。

 一輝さんの憂いは、日本全体に及ぶ。
 経済の不安、治安の悪化、戦争への荷担・・・、先行きの見えない日本の状況に対する首相のやり方を一輝さんは悪政とばっさり言い切る。一輝さんの憂いは、裏を返せば僕ら若い世代への大きな期待である。
 危急の警告とメッセージが、幽谷の地、早川から発せられているのである。

  • 憂国の老翁

一輝さん

居住地 西山地区 温泉
取材日 2002/08/28
取材者名 相地 稔