水は動いてるからきれい。人生も然り。

「昔の人は達筆だね。今はみんなワープロでしょ?ホンット貴重なものだと思う、これ。」節子さんのお宅にある蔵には古くから伝わる古文書が沢山保存されていました。現在は法務局が扱うような書類ですが、昔は集落が扱っていたそうで、その書類は木の箱に入ってきれいにとってあるのです。古文書の他にも、村の結婚式に使った杯も見せて頂きました。赤い朱塗りの三段重ねの杯と台です。杯には夫婦の契りと子孫繁栄を願うめでたい絵柄が描かれています。節子さんも結婚式ではその杯で三三九度をしたそうです。
 結婚の日には、花嫁衣装を着てトラックに乗り、夏秋の麓まで連れてきてもらい、そこからは畳下駄をはいたまま、急傾斜で曲がりくねった険しい坂道を登ったといいます。途中で疲れて花嫁のカツラを取ってしまい怒られた、と笑います。「ほんと、大変だったね。その当時ビデオでもあったら面白かったろうね!」結婚式は翌朝まで行われて、朝には花嫁がおもちをつくのがしきたりです。もちろん新郎新婦は疲れますので、休憩中の代理として添嫁(しょいよめ)、添婿(しょいむこ)という人がいたそうです。
 お嫁に来るまでは平らな土地に暮らしていたそうで、初めの頃は山道に慣れず苦労したそうですが、今は「ここの暮らしは最高!」だそうです。いつ心の変化があったのか尋ねたところ、調理師として12時間労働をしていたころの事だとか。一日の仕事を終え、汗ダクダクになりながらも車を走らせて帰ってくると、ここ夏秋集落の入口に来たところで涼しい風がヒューと吹く。「風が違う。疲れ切って帰ってきても、私はここで生き返るんだなーってわかったのよ。やっぱり人間は経験と年齢を重ねないと本当に価値のあるものには気がつかないものだね。」
 俳句、詩、畑仕事、友達とのおしゃべりと大忙しの節子さんですが、元気の元は動き回っていること。「うちには池があるけど、水を止めちゃうとだめだね。汚れたり凍っちゃうもの。人間もそうだね。百姓はタネを蒔けば手入れがいる。子育てもそう。続きがあるってことだね。続きがあれば希望があるから毎日動いていられる。」素晴らしくポジティヴでチャレンジ精神旺盛の節子さんは元気印です。

  • 水は動いてるからきれい。人生も然り。
  • 水は動いてるからきれい。人生も然り。
  • 水は動いてるからきれい。人生も然り。

節子さん

居住地 本建地区 差越・夏秋
取材日 2001/08/29