黒い家の中

 深い深い黒がその場所を包んでいて、戸からこぼれた光が階段を見上げると静かに降りてくる。そう、とっても静か。・・・「こんにちは」と声をかけると「はい」とすぐ返ってくる。ちゃぶ台の向こうにひょっこり座っているのは静子さん、御歳85歳。写真は家の前にある水場のもの。ここの中で冷えた美味しいオレンジジュースを飲ませていただいたんです。
 ここ一年ばっか調子が悪くって、骨粗しょう症。でもお耳はとっても良くて、さっきの「こんにちは」だって戸の向こうからなんだから。いろんな話も教えてくれました。
 早川町の中でもずいぶんめずらしい。お蚕を平成のはじめまでやっていたそうです。その名残がこの家全体に染みわたっている。深い深い黒が天井に、梁に、柱に。とても静かな空間。ここで生まれた糸が、今どこでどなたが着ていらっしゃるのだろうか。大切に使ってくれていたらいいなと思います。
 こんな素敵なうちにゆかりのある人がたくさん。お孫さんは11人、ひ孫さんが11人。お子さんは何人か聞かなかったな。「お盆は涼しいからこっちで集まって、冬はあったかいから甲府に集まる」のだそうです。ここにいても不自由はない、みんな友達とか家族が良く訪れてくれるって言ってました。下山に田んぼを持っていて、その付近の人と家族みんなとでつくっている。とてもあったかい美味しいお米がとれるんでしょうね。

  • 黒い家の中

静子さん

居住地 西山地区 下湯島
取材日 2002/08/24
取材者名 上原 佑貴