心にしまわず

 湯泉商店を営む幹江さんは昭和2年、下湯島生まれの75歳。同じ下湯島生まれで幼なじみのご主人と結婚して、5、6年後に西山発電所の建設に合わせてお店を開業しました。
 お子さんが4人、お孫さんが6人いらっしゃる幹江さんの今の楽しみは、畑で作った無農薬野菜を横浜や甲府、東京などの都会に住むお子さんやお孫さんたちに送ること。幹江さんはほうれん草、小松菜、青梗菜、馬鈴薯、大根、え(荏胡麻)、茂倉うりなどを作っているそうですが、美味しくて安全な野菜は、どこに送っても喜ばれることでしょう。
 お子さんたちは、折にふれて都会へ出て一緒に住もうと言ってくれるそうですが、そんなお子さんたちの気持ちを嬉しく思いながらも、住み慣れた下湯島を離れることはやっぱりできないそうです。
 「独り暮らしでも、寂しいということはないよ」そう語る幹江さん。下湯島は地域内での交流が盛んな、人情のある集落で、お昼は誰かの家に呼ばれて食べることも多く(実際、私たちがお話を伺っている最中にもお誘いの電話がかかって来ました)、一ヶ月に3回のお題目の時もその後は決まってお茶会が開かれるそうです。その和気あいあいとした近所付き合いの秘訣は、いつも相手の良いところを見ていることと、人が集まったときにも他人の悪口を言わないこと。これは、誰かが特にそうしようと決めたわけではなく、この集落には元から自然にそういう雰囲気ができていたのだとか。「心にしまわず、ざっくばらんに話し合って、それで輪ができるんだよ」そう言って笑う幹江さんの笑顔を見ていると、この地を離れられないという気持ちが、私たちにも分かる気がしました。

  • 心にしまわず

江さん

居住地 西山地区 下湯島
取材日 2002/08/26
取材者名 小宮 一穂