本当の幸せとは・・・

 輝夫さんは増田屋の主人である。生まれは赤沢で、赤沢にも家があるという。羽衣と赤沢の間に茶屋を開いたのが始まりだそうだ。そのお店を旅館にしたのが百年前。歴史が伺える。10代の頃は役場で働き、20代前半は名古屋や川崎の港で生コン車の運転手をしていた。そのとき、本当にやりたい仕事がわかったという。いい勉強になったそうだ。都会での仕事を経験したことで、田舎でもやれるという自信がついたという。何をやってもそんなに大きな違いはない。どうせやるなら故郷で仕事がしたい。25歳でUターンして宿を継いだ。
 それから36年、旅館業一筋でここまできた。こういうところで商売させてもらっていることがありがたい。この地形を守りたい。苦しい思いがあるからこそ、努力するようになった。人が幸せになれば、自分も幸せになる。上を見ずに常に足下を見て、次の世代に繋げる。車は通り、宅急便は来る。石油・ガスも来るしテレビも見られる。美味しい水も飲める。今は何の文句もない。弱いところには手をさしのべ、私利私欲に走る人には待ったをかける、たとえ嫌われたとしても。こういうところだからこそ、集落を大事にして欲しい。お互いに協力しあう。どうする、こうするってできる場所ではない。都会のまねばかししたって無理である。今あるものをどういう風に自分たちのものととらえるか。海のない所に海を持ってこいと言ってもしょうがないだろう。
 動物は嘘をつかないので好きだという。答がちゃんと帰ってくるから。人間も嘘をついてはいけない。ひとりひとりがもう少し責任を持てるようになれば社会が変わる。職業に責任がなくてはならない。だから輝夫さんもお客さんに対しては、手をかけてもてなす。板前の次男が旅館のあとを継ぐそうだ。代々この旅館と輝夫さんの信念が受け継がれていくことであろう。

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輝夫さん

居住地 本建地区 新道
取材日 2002/12/11
取材者名 遊佐 敏彦