「いつ、かづけた?」

 幸子さんは、むかしからずっと塩之上に住んでいる元気な女性です。
 この辺りでは昔、とても養蚕が盛んでした。幸子さんのお宅も例外ではなく、平成3年頃までご自宅で蚕を飼っていたそうです。
「あがる(繭を作る)前の蚕が桑を食べる音はすごいのよ。まるで夕立のよう。ざわざわざわざわ、ざわざわざわざわ、という風に」
 このように養蚕のことを話す時の幸子さんの表情はとてもいきいきとしています。
 「蚕っていうものは、手をかければかけるほど良いものができるのよ。」という幸子さんは、ストーブで温度調節をして幼虫の成育速度をそろえたり、夜中に3回も起きて手入れをしていたそうです。蚕が繭を作り出す時期にはほとんど睡眠がとれなかったそうですが、真っ白な良い繭ができた時には、本当にうれしかったのでしょうね。
 当時は、村の中でも競争しあって、よりよい繭を作ろうと努力していたようです。そのころの朝の挨拶は、「おはよう」ではなくて、「いつ、かづけた?」という言葉で始まっていました。この言葉は、「いつ蚕を脱皮させた?」という意味で、お互いの蚕の発育状況を聞きあって切磋琢磨していたようです。
 蚕の世話をお子さん達にも手伝ってもらうなど、昔はいろいろと大変だったようですが、今とくらべると町に活気があって良かったとも思っているそうです。

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幸子さん

居住地 五箇地区 塩之上
取材日 2002/02/25
取材者名 中神 賢人