山しかない早川町の自然が好きです

 古い家の周りにはガーデニングが施されている。その家の玄関を開けると、トライアルバイクがある。顎髭を蓄えた主人が、コーヒーを持って出迎えてくれた。
 山の男。それが勉さんの第一印象。
 寺崎 勉さんはフリーのライター。旅行雑誌の連載や単行本を執筆されている。町役場が使われなくなった家を斡旋していた時期があり、空き家を借り受けて、十年ぐらい前から奥さんとともに早川に住むことになった。彼は、北海道で生まれ育ち、小さい頃から家の毛布を持ち出し外で寝ることもあったぐらいのアウトドア好き。学生時代からバイクや自転車での旅行が趣味で、古い車やバイクを直して乗るのも好きだという。学生時代の旅行を原稿にしたものを出版社に持ち込んだことが、ライターになるきっかけになった。大学に進学以来、東京に住んでいたが、奥さんが畑をしたいという要望と、東京の雑踏が嫌になったことで早川町に引っ越してきた。借り家は、何年も人が住んでいなかったためにすぐには住めなかった。2週間近く家の前でテントを張って家の掃除をしながら生活をしないといけないぐらいの汚れがあったという。
 そして、家の中を自分たちの住みやすいように改築した。台所や便所、2階を中心に手直しをした。今では猫4匹と一緒に暮らしている。お話をお伺いしてる時も猫たちが家の中で追いかけっこをしている鳴き声が聞こえた。この猫たちは、取材旅行中に崖の下に捨てられていたのを拾ってきたのだという。
 そんな優しくって、ワイルドな寺崎さん。早川町に住んでみて最も驚いたことは、地域の人々の繋がりの深さだという。寺崎さんも毎月一回、地区の集会に参加している。その時に共同生活用水の管理の当番引き継ぎをするのだが、雨乞いと先祖への感謝の気持ちを込めて題目を唱えるのには驚いたという。
 寺崎さんは、早川の塩之上を拠点にしながら取材旅行を今も続けている。キャンプをしながら山道をバイクや自転車や車などで走る。その時、感じたものを文章にすることを心がけている。ありのままの自然が好きで、キャンプは遊びだが、自然にとけ込むことが大切だと語る。こうした考えを持つ寺崎さんは、早川町の山の中に点在する家々が自然にとけ込んでいて好きだという。寺崎さんの家には、バイクや旅行の仲間などがシュラフを持ってよく泊まりに来る。山の男たちの溜まり場である。
 山の男の住処には、早川の山々の風景がよく似合う。寺崎さんの家を後にすると、周りには美しい山々が見えた。

  • 山しかない早川町の自然が好きです

勉さん

居住地 五箇地区 塩之上
取材日 2002/03/05
取材者名 福西 大輔