七面山のふもとより

 服部さんは日蓮宗の神通坊の住職です。神通坊はもともとあばらやの様だったのですが、七面様が一人で新しく建てて下さる人を必ずお遣わし下さる、と確信をもって一ヶ月ほどたったら、ぜひ建てさせて下さいという人があって、現在の姿になったそうです。
 信仰心により日本人の精神的向上を願う服部さんですが、人々の平和のために力を尽くしているマザーテレサに会い、握手をした時には身も心も震えたそうです。そのマザーテレサが日本に来た時に「お気の毒な国ですね」と言われた事が心に残っているそうです。「物質的には非常に恵まれている日本、それにもかかわらずお気の毒と言われる理由があるのです。マザーテレサには繁栄の陰にかくれた日本人の心の貧しさが見えていたんでしょうね。」と住職はおっしゃいました。日本は教育大国であり、教育・教養があって深い理知をそなえた方も随分多いのに、様々な歪みが吹き出し、この深刻さはいっそう深まることは明白。日本人もこの辺で考えなければならないのではないだろうか。例えば盆栽は余分な枝を全て切り落とし、適当な肥料と水をやり、日光に当てる努力を続けてこそ、五十年百年経つにしたがって奥ゆかしさが増して、素晴らしいと讃えられるようになる。人間も同じで整えるべきところを整えなければならない、と考えていらっしゃいました。例えば、十年程前にお母さんが入院し看病に行った時のこと。重病ではないので退屈し休憩室へ行ってみると、週刊誌がたくさんありました。見てみると、それはどれもこれも「ポルノ」雑誌で、その内容や大写しの写真の下劣さに呆れてしまいました。それで、いったいどこの出版社が出しているのかと見て驚いいたそうです。小学館、光文社、新潮社など、どれも日本の代表的な出版社でした。出版社の使命や責任は、その国の文化や知性などをリードする大切な誇りあるものと思うのに、利潤の追求のために競ってポルノ雑誌を出すとは‥‥。言論の自由、出版の自由、表現の自由、それらは知性とか叡智によるべきもので、利潤によることは反省されなくてはならないと思ったそうです。
 服部さんは様々なことに目を向けていらっしゃる方で、インドや中国などに行き、説法をしたり、寺院の建設に携わったりしています。その折に世界と日本を比べると、マザーテレサの指摘は、現在の日本人が信仰を持っていないことが原因だと思われるそうです。「正しい信仰を心から尊び、心の深くに教えの尊厳を知って、少しでも教えを実行しようとする努力によって、お釈迦様の人類をお救い下さろうというお心の限りないご自愛の深さに、心の底から感動(法悦)に包まれます。そこには、魂(心)の大いなる喜びがあり、希望があり感謝があり、反省あり、人生の旅路に横たわるさまざまな苦難を超越する勇気が湧き出てきます。また物事を正しく見、判断し行う智慧(仏智)が得られます。信仰は安らぎであり、これに優れる「癒し」はありません。」とおっしゃっています。今のような、混迷が日に月に深刻さを増していく時こそ、人々が仏教信仰に是非とも心を向けて頂きたいと心から願っておられるそうです。「正しい宗教には必ず神秘性、合理性、科学性がある。近代科学はまだまだ仏教のそれには及ばない。」と住職は言います。
 「日本へ仏教が伝来してから一番多く読まれたお経は確かに法華経です。その法華経に『深智のために説く浅識はこれを聞いて迷惑して理解せず』とあります。」住職には、人間の生き方に対する信仰の重要性について教えていただきました。

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服部さん

居住地 本建地区 角瀬
取材日 2002/12/12