戸川のスポーツマン

 まず、戸川という場所に驚いてしまった。登っても登っても家が見えず、辺りの景色だけが、どんどん下の方に遠ざかっていく。金生さんの家に着いた時には、かなり上の方に登ってきていた。今は車があるから大したことはないが、昔は食糧を買うにも学校に行くにも、全て自分の足で登り下りをしていたために、特に、大島まで買い出しに行って帰ってくるのに半日ほどかかっていたという。やはりこの坂道を毎日行き来していたためであろうか、足腰はかなり強かったようで、長距離の選手をしていた。早川町の駅伝大会では区間賞をとったりと、なかなかのスポーツマンであったようだ。
 また、食べ物に関してもなかなか面白い話を聞くことが出来たが、当時食べていたものは、麦のごはんや、自宅で飼っていたうさぎや鶏などであった。米だけのごはんは高級品で、正月の三が日しか口にすることができなかった。私が最も驚いたのは、うさぎや鶏以外にも、いるかを食べていたということであった。静岡の辺りでは、いるかを食べる風習もあるが、まさかこんな山奥に住んでいる人達も食べていたとは思わなかった。いるかは、大根と煮て食べるのが美味しいらしいが、うさぎなどと同様に高級品だったらしい。
 この他にも奥さんとの出会いや、早川町での祭りの話も聞くことができたが、風邪をひかぬようにとの祭りが道祖神で行われたこともあったという。この冬3回風邪をひいた私が、もし参加できていれば、風邪をひく回数が1回くらいは減ったのではないだろうかと考えても、もう遅い話である。

  • 戸川のスポーツマン

金生さん

居住地 硯島地区 戸川
取材日 2002/03/03
取材者名 福永 香織