内なる光

 里江さんがお時間を作って下さったと、区長さんからお聞きして、里江さんのお宅を訪ねることになりました。すると、等子さんも、私たちを出迎えて下さいました。実はその日の午前中、等子さんにも取材のお知らせに伺ったばかり。なんだか息のあった連携プレーのようです。黒桂の方々の受け入れ広さと仲良しさは、いわゆる都会に住んでいる私たちには、信じがたい光景です。
 お話は、とてもにぎやかなものになりました。里江さんは、長寿苑でボランティア、等子さんは、奈良田の民謡がお得意です。それぞれ、生活改善クラブ、食生活改善クラブにて活動されています。山菜祭や、そば祭には、お二人とも参加され、それぞれの所属するクラブの出す一品に手を込めるということでした。
 とても活動的な等子さんと里江さん。そんなお二人を息子さん達も応援しています。里江さんの息子さんは、警察にお勤めで、なかなかまとまったお休みを取って帰省することが出来ません。しかし、家の外に出て、ボランティアなどを通じて人と交流することを、好ましく思っています。ボランティアに行き、他の集落のお年寄りの方と触れ合いながら、その中から、知恵を沢山もらいます。「元気でいとうかね。」「いたよー。」という風に、ただ交わす会話の中にも、暖かさを感じるそうです。お二人が話す方言は、耳暖かい。こういう地域を飾る言語は、本当にうらやましく思います。等子さん曰く、「井の中の蛙では、さみしいもの。」精神を一所に留めずに、オープンにすることで、たくさんの事が見えてくるし、早川内の様々な人と交流することが出来るとおっしゃいます。お二人のとても和やかで、親しみやすい雰囲気は、そうした思いから作り出されているのでしょう。
 等子さんと里江さんのお宅の近くには、早川が流れています。大雨や台風がやってくると、濁流に流されてくる、岩のごとごとという音が聞こえてくるそうです。その早川も、昔と比べると、大分、水流と水質が落ちました。お孫さんが遊びに来た時など、かじか釣りや水遊びが思うように出来なくなりました。早川らしい伸びやかな清流を取り戻したい、とそう願っています。
 お二人は、早川町を、中からのわき出す魅力で、人を惹きつけられる町にしたいと考えています。都会の子供達を、山村留学で預かることにも積極的です。等子さんは、お茶まんじゅうやふきの甘煮を、食生活改善クラブで商品化して都市部で販売したこともありました。しかし、思うような売り上げに繋がらない。早川町の施設に置いてもらうことも思いましたが、施設を訪れる絶対数に不安がある今、置かず終いになっています。伝統の風習や味をどう伝えていくか。終始明るくにぎやかなお二人です。こんなおばあちゃま達から、様々な魅力の「受け渡し」を可能にしていくこと。途切れてしまうのは、あまりにももったいないこと。そして、例えばお嫁に行って、こんなお母さんだったら、きっと楽しいに違いない!

  • 内なる光

里江さん 等子さん

居住地 都川地区 黒桂
取材日 2002/02/26
取材者名 奥津 直子