夜空に唄えば

 お客様が美味しく食べて、楽しい時を過ごしてくれるのが嬉しいと話す陽子さん。陽子さんは自分を「食堂のおばさん」というけれど、本当は早川町内にあるレストランを切り盛りしています。
 このお店は、平成7年の開店です。当初は、お昼のメニューも出しており、一番の人気は、陽子さんお手製のみそを使った甲州名物「ほうとう」。
 鉄鍋で供する本格派のこのほうとうは、夜だけの営業にされた今、幻のメニューとなっています。紅葉の季節にお店をオープンしたことや、お台所が狭い設計になっていたこと、そして、陽子さんお一人で切り盛りしていたことで、この頃は、随分と忙しい日々だったようです。
 それにしても、陽子さんの気配りは、すごいです。他のお客様の接客をしつつ、私たちの質問に冗談を交えながら答え下さる上に、お料理を次々と出してくれます。一体、いつ作っているのだろう???
 パプリカの赤もかぐわしい海鮮サラダ。お手製味噌仕立ての鯖の味噌煮にしっとり芥子菜のおひたし。あつあつアスパラベーコンにお魚のつくねショウガ添え。酢醤油で頂くほうれん草のお浸しって、美味しいですねぇ。おっと、忘れちゃいけないホタルイカと、ネギ味噌おにぎり、炒飯などなど。私たち、確か来る前にたらふくご飯を食べてきたはずなのに???
 陽子さんは、高校1年生の時にハイジャンプで国体に、2、3年生の時はやり投げで国体に出場しました。何と、お嬢さんも幅跳びで県大会に出場されたそうです。石原裕次郎似のだんなさんも柔道をされます。陽子さん自身は、今は膝や腰などを痛めたこともあり激しい運動はできませんが、お店をはじめられた当初は、お仕事の最中にバレーの試合を掛け持ったこともあるそうです。ユニフォームを横目に、膝にはサポーターをして台所にたつようこさん。なんだか、陽子さんなら、つい応援したくなるような図式です。お嬢さんの成長も、とても楽しみですね。
 陽子さん曰く「歌で、人は変わるもの。」歌は、内なる何かを表現する手段。歌って自己を表現することで、きばった構えがとれるのかもしれません。人間、悩みはあるけれど、また元気になれる要素が、このお店には確かにあると感じました。
 ああ、食べたな。飲んだな。美味しい夜もそろそろ終幕。しかし、このドアを開ければ陽子さんがいるという事実には、なんともこっくりとした安定感があります。見上げれば満天の星空。こっくりとろけそうなこの闇の中、ようし、みんなで帰ろうか。

  • 夜空に唄えば

陽子さん

居住地 都川地区 黒桂
取材日 2002/03/08
取材者名 奥津 直子