例えば、暖を取る炭火のように。

 外でのお仕事中に、声をお掛けしてしまいましたが、快く取材に応じて下さいました。武雄さんが、木を切り、理子さんが、切られて落ちる枝をはらっていきます。はじめは、ご夫婦だと思っていたのですが、実は、そうではないと分かりました。ご近所同士助け合って生活している事が、伝わってきます。
 「早川は、良いところだよ。ここでは、こうして助け合って生きていけるしね。」と理子さん。戦争中は、都会から疎開してくる人も、黒柱には、多くいたそうです。そういう方達にも、分け隔て無く接するのが、黒柱地区の住民性。終戦後には、当時のことを思い出して、遠方はるばる尋ねてくれた人もあったそうです。「自分の家だと思って、あがって行きなさい。」とよく、誰もが疎開に来た人に言ってらっしゃいました。疎開=つらく堪え忍ぶ、という印象は、必ずしも合っていないのかもしれません。
 理子さんのお得意料理を聞いている最中、切り干し芋の話題になりました。干したお芋を、甘く煮込んでいく。うーん、美味しそうですねぇ。他には、煮干しで取ったお出汁で、大根を味噌煮にする。ううーん、美味しそうですねぇぇ。そして、「それじゃ、切り干し芋持っていく?」とまで。ああ、あきれられてしまったかな。そして、ついには、私たち取材人達は、理子さんのお宅に、武雄さんを交えてお邪魔させて頂く事になりました。 理子さんのお宅のおこたつは、何と、炭火です。私たちにとっては、生まれて初めての体験でした。ぽくぽく暖かくて、いい気持ち。使用する炭は、武雄さんがお作りになります。年に幾度かお作りになり、以前は千葉にまでその炭を出荷されていました。
 私たちの前には、お話に伺っていた、理子さんお手製の切り干し芋の甘煮と、大根と鮭の煮付け、白菜のお漬物に、大根のおなますが、次々と登場してきます。おなますに柚を入れると、香りがとても美味しいのですね。黒柱では、山に猟をしに入ることもしばしばあります。捕った猪などは軒先でさばき、集落の人たちで、お鍋にします。美味しい猪の部位は、背肉と足の太股のあたり。お酒を酌み交わしながらのお鍋は、さぞかし、にぎやかなのでしょうね。
 新宿の中央線ホームには、早川のポスターが貼ってあるんだよ、と理子さんに教えて頂きました。立春も過ぎ、これから、早川の山に新緑の芽吹く頃を迎えます。毎年訪れてくれる行楽客に、ポスター効果があるのかもしれません。
 冬の間、ゆるゆるとした暖を、一日を通し、与えてくれる炭。熱くなく、心地よい、暖かさをいつも感じされてくれる、そんな和やかな雰囲気を、理子さんに感じました。

  • 例えば、暖を取る炭火のように。

理子さん 武雄さん

居住地 都川地区 黒桂
取材日 2002/02/23
取材者名 奥津 直子